ある熱帯夜の話

これは片田舎に住む、哀れな青年のお話です。


暑い夏の日のことでした。大学生の彼はバイトを終え、帰路につくのでした。
家に到着すると、辺りは真っ暗で、しーんと静まり返っていました。

玄関を通り、階段を上がって、電気を点けようとした時、あることに気が付いたのです。

あることとは、前の日、電気を消し忘れていたことでした。
少し残念な気持ちを胸に宿しながら、青年は部屋の扉に手を掛けました。


ぶーん。ばちっ。ぶん、ががん。


部屋中に虫という虫がわんさか飛び交い、そこはまるで腐海の森のようです。
そうです。青年は前の日、よほど疲れていたのでしょう、窓を開けっ放しにしていたのです。灯りを点した蛍光灯に、窓は全開。ここは田舎です。月の光と間違えた虫達が、青年の部屋を蹂躙していたのです。


「森へお帰り」
青年は、一人果敢に立ち向かい、虫笛を振り回す自分を想像していました。


それは暑い夏の日ことでした。
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by gigi666 | 2010-07-10 00:30